目次
5話~6話 (page.3)
5話
ねぇ、美音
草摩綾女 (The Final 5話)
このまま僕の呪いが解けなかったら
君はいつか、いなくなってしまうかい
私の幸せは
倉前美音 (The Final 5話)
私が決めるの
美音はいなくならんのです
美音は店長にぞっこんなので
ここにずっといたいのです
だめですか?
俺は 伝えなきゃいけない
草摩由希 (The Final 5話)
俺が 普通の人間とは違うって
そんな風に
草摩紫呉 (The Final 5話)
いつまでも閉じこもっていることに
何か意味でもあるんですか
そうして閉じこもっていれば
自分が思い描いた世界になるとでも?
あんなやつ
草摩慊人 (The Final 5話)
あんな冷たいやつ
もう知らない
つらいとき
本当につらいとき
優しくする気がないなら
もう 知らない
そんなことを
草摩紫呉 (The Final 5話)
考えたって無駄だよ
時は動く 君を置いて
人も感情も
僕ね 背が伸びて嬉しいんだ
草摩紅葉 (The Final 5話)
小さい時だって
小さいなりに楽しかったし
小さくなくちゃできないことも
許されないこともあったけど
僕だってやっぱり
男だから
いい加減
草摩はとり (The Final 5話)
年下相手に意地の張り合いはやめたらどうだ
俺から見てもお前は時々
慊人を心底嫌ってるみたいだ
もう少し 優しくしてやったらどうだ
そうは言っても
草摩紫呉 (The Final 5話)
所詮僕の優しさなんて
急ごしらえの後付け品だし
君のような本物には敵わないんだよなぁ
なぜだろう
僕はそれを悲しいとは思わないけれど
なぜだろう
例えば
親の愛というものも
別段欲しいと思わなかったし
正直”物の怪憑き”という現実も
僕自身にとっては大した痛手でもないし
これを歪みと呼ぶのなら
僕は まさにそれだろう
そしてそれすらも
哀しいと思えないのは
とても寂しいことかもしれない
こんな人間こそ 本当に
夢に見るべきだったのは…
慊人がもっと
草摩紫呉 (The Final 5話)
君のように寛大で
紅野くんのように無心な
そんな優しさを
僕にまで欲しがっているのだとしても
無茶な話だ
僕はあの子の
父親になりたいわけじゃないんだよ
そのうち夾より大きくなって
草摩紅葉 (The Final 5話)
夾より格好良くなっちゃうかも
そしたらそしたら
もしかして
透は僕のプロポーズを受けてくれるかな
ねぇ
諦めちゃうと
そんなことだって起きるかもしれないって
分かってる?
だから 諦めるのは良くないよ
僕ももう 考えても仕方ないなんて
諦めるのはやめる
自分以外の男に
透を奪われたら悔しくないの
夢に見るべきだったのは
草摩紫呉 (The Final 5話)
君だったのかもしれないな
僕みたいなやつにこそ
必要な存在だったのかもしれないな
なんて 思ったりもする今日この頃
もしものお話
時は動く 歩み始める
草摩紫呉 (The Final 5話)
人間も 感情も
だから君にも
早く来てほしいのに
むかし むかし
草摩晶 (The Final 5話)
神様は十二支たちに言いました
明日 私が開く宴に招待してあげましょう
この”神様”は お前のことだよ
慊人
特別な子 選ばれた子
愛されるために生まれてきた子
お前の未来に寂しさも恐れもない
あるのは不変 それだけだ
永遠を約束された子
誰もお前を置いて…
そっか
草摩紅葉 (The Final 5話)
こんなあっけなく
終わりは来るんだ
なんだったんだろう
草摩紅葉 (The Final 5話)
心の端で いつも僕を見張っていた
いくつもの気持ちは
なんだったんだろう
この人の 一体何が僕を縛れるっていうんだ
こんなに小さく
弱くて 憐れな人に
呪いが解けたから。
草摩紅葉 (The Final 5話)
…なぁんて 言ったらびっくり?
僕が解けるより
夾が解ける方が
透は喜ぶ
きっと喜ぶ
だって…わかるでしょ…
悔しいのは
僕の方なんだ
なんで僕が
草摩紅葉 (The Final 5話)
僕だけが解けちゃったのかとか
原因は全然思い当たらなかったけど
これだけは言える
慊人
君のそばに
これから一生居続けることはできない
できないんだよ もう
君が僕を縛ることは
人でなし 裏切者
草摩慊人 (The Final 5話)
裏切者!!
お前なんか!
お前なんかがここから!
僕から離れたって
戻る場所もないくせに!!
母親も父親も
誰もお前なんか
迎え入れたりするもんか!
幸せになんてなれるもんか!!
わかってる
草摩紅葉 (The Final 5話)
僕はもう
こんなに自由で
こんなに寂しくなった
呪いが解けたって
好きな人が手に入るわけじゃない
みんなと
無条件で繋がることができた絆も
なくなった
いまさら
いまさら解けたって
壊れる前には戻れない
紅葉くん、よね
紅葉の母親 (The Final 5話)
おはよう
ここって通学路だったの?
ううん
草摩紅葉 (The Final 5話)
今日は違う道を歩いていこうと思ったの
うちの子はまだまだ子どもよ
紅葉の母親 (The Final 5話)
今度の夏休み
家族で旅行するんだけど
今からはしゃいじゃって仕方がないの
紅葉くんは?
紅葉くんのお家も
ご家族でどこか行くの?
遠い場所…
草摩紅葉 (The Final 5話)
僕がいない場所の幸せ
だけど…
草摩紅葉 (The Final 5話)
だけど!
それらが満たされないと
僕が幸せになれないとか
そんなこと
そんなこと勝手に決めないで!
僕は自由で心細いけど
僕のための幸せはまだ
まだこの先の未来で
僕が来るのを待っているかもしれないだろ
…うん
草摩紅葉 (The Final 5話)
行くよ、旅行
──
いつか、自分が持てるだろう家族と
先の未来へ 動いていく世界へ
僕は ようやく歩き出すんだ
自分の人生を
じゃあ僕
草摩紅葉 (The Final 5話)
そろそろ行くね
行ってらっしゃい
紅葉の母親 (The Final 5話)
気を付けて
6話
よかったなぁ
草摩潑春 (The Final 6話)
友達に心配されるぐらいに仲良くなって
嬉しいよなぁ
よかったなぁ
嬉しいよなぁ
照れてるんだよなぁ
嬉しいんだよなぁ
依鈴が大声を出すなんて珍しいね
草摩籍真 (The Final 6話)
お友達がお見舞いに来てくれたから
はしゃいでいるのかな
仲が良いね
そうか
草摩籍真 (The Final 6話)
夾の行き着くところだね
リン
草摩紫呉 (The Final 6話)
あのね
十二支の呪いだけどねぇ
解けるよ 放っておいても
いずれ
そんなにしゃかりきになんなくたって
もう壊れかけてるんだよ
遠い昔の絆なんて
解放の日はいずれ来る
僕たちは最後の宴に招かれた十二支だよ
いずれとは
本田透 (The Final 6話)
いつですか?
何年とか 何十年とか
先のお話ですか?
それでは だめです
春までには
次の春までには解けなくては
夾くん・・・!
聞いた話
草摩紫呉 (The Final 6話)
十二支が今みたいに全員揃うのは
初めてなんだって
だからこれは凄いことだと
お局たちは喜んでたけど
僕は違うことを考えてた
これが最後の宴だから
全員揃っただけなんじゃないのかって
実際紅野くん
草摩紫呉 (The Final 6話)
自発でも強制でもなく
ぽろっと呪い解けちゃったでしょ
幼稚な言い方をするなら
紅野くんはもう
僕らの仲間じゃない
その紅野くんも言ってた
もう終わりは近いだろうって
小さな変化やきっかけは
積み重なって動き出すって
あ、でも
草摩紫呉 (The Final 6話)
このままだと夾くんは幽閉されちゃうけどね
分かってるよちゃんと
夾くんが近い将来どんな目に遭うか
十二支の僕ら全員
でも何もしないし
何も言わない
なぜ?
そうなるのが猫憑きの役目だからさ
十二支の僕らは化け物だ
でも猫憑きである彼をみてこう思える
よかった あれよりはマシだ
猫憑きは十二支の僕らの為に用意された
仲間外れの生き物
そしてそれを夾も分かってる
「お前の一番大切なものって何?」
本田透 (The Final 6話)
それは
それはお母さんだと
即答できなかった問い
代わりによぎっていたものは…
私 どうして
あの日 あれほど誓ったのに
気配が消えていくのが分かる
ついこの前まではあったのに
いつものように
そこに座って笑うお母さんがいたはずなのに
消えて 無くなっていく
だから誓った
これからはいつだって
どんな時だって一番に
胸に思うのはお母さんであり続けようと
そうして思い続けていれば
いつまでも色褪せることはないと信じた
思い出も 約束も
いつも一緒
そう信じなければ
全てのことに負けてしまいそうだったから
なのに だめなのに
消えてしまう
遠く 遠くへ
どうしたら…
本田透 (The Final 6話)
どうしたら良いのか…
わからない…
そういう時は
草摩夾 (The Final 6話)
どうもしないんだよ
どうにかしなきゃって思ったら
どうにかすりゃ良いんだよ
たぶん
あとは
そうだな…
泣いとけ
ごめんなさい
本田透 (The Final 6話)
ごめんなさい
あと少し
あと少しだけ
ここにいたい
どうにかしなくちゃいけなくなるその時に
本田透 (The Final 6話)
自分が手放すのが何なのかを
もう 分かってるのかもしれないから
じいさん
草摩夾 (The Final 6話)
あいつのこと今日子って呼んでんのか
それって
ちょっと悪趣味じゃねえの
そうだねぇ
透の祖父 (The Final 6話)
でもねぇ
つなぎとめたかったんだ
どんな形でも良いから
今日子さんが
確かに居たんだって証をね
示したかった
でないとあの子は あのまま
折れてしまいそうだった
あんたは知ってるかい?
透の祖父 (The Final 6話)
なんで透さんがあんなしゃべり方してるのか
あれはどうもね
勝也の
父親の真似をしてるつもりらしいんだ
勝也の葬儀の時にね
いらん親戚が いらん事を言ったんだ
勝也に少しも似てやしない
違う男の子供じゃないのかと
こんなんじゃ 慰めにもなりゃしない
ってね
子ども相手になら 何を言ったって
分かりゃしないと思ったのかね
馬鹿だねぇ
子どもは大人の言う事を
ちゃんと分かっているのにねぇ
そんな単純なことじゃないですもん
草摩楽羅 (The Final 6話)
どんな顔して会えば良いか分かんないし
そんなすぐに割り切れないし
顔 ぜったい歪むもん
ぜったい負けた気持ちになるもん
そういう自分を認識するのが
一番嫌なんだもん!
さっさと夾くんとくっついてくれれば
まだ踏ん切りもつくのに!
やはりも何も絶対そうに決まってます!
少なくとも夾くんは透くんを好きです!!
心配になるだけだよ
草摩籍真 (The Final 6話)
夾をひとりの人間として
好いてくれているだろうかと
同情でも 憐れみでもなく
先代の猫憑きにも
伴侶はいたんだよ
身の回りの世話をしていた女性で
子を宿し 死に水も取られた
ある時誰かが問うた
なぜあなたは猫憑きにそこまでできたのかと
「だって あまりにも可哀想でしょう」
その精神は美しいものかもしれない
祖父も独りで過ごす日々より
何倍も幸せだったかもしれない
けれど…
こんな残酷で
本田透 (The Final 6話)
欲深い気持ちは
同情なんでしょうか
だって私
十二支のみなさんを護りたいだとか
解放したいだとか
そんなの 詭弁です
本当の気持ち隠して
誤魔化して
卑怯です
私は…
──私はお母さんを一番に思っていた
私は夾くんを
夾くんをただ何からも
草摩からも 呪いからも
誰からも奪われたくない
夾くんが一番 大切だから
そういうことは
草摩楽羅 (The Final 6話)
ちゃんと 本人に言いなさい!
お父さんは
本田透 (The Final 6話)
遠いところに行ったんでしょ?
お母さんもそこへ行くの?
だってずっと元気がないの
お話してくれないの
お父さんに似てないから
がっかりしてるの?
そっくりになれば
お母さん元気になる?
どこへも行かない?
その後に今日子さんが長い時間
透の祖父 (The Final 6話)
家を空けてしまった時があってね
それからだ
「それからだよ
あの子が 勝也みたいに…」
あの日続かなかった言葉の先に
草摩夾 (The Final 6話)
ようやく辿り着いた
一度だけ
仕事で一晩留守番させなきゃいけなくて
心配だって言うから
様子を見に行ったことがある
その時の透が
一人きりの透が
透の姿そのものだとしたら
そうだ あんなにも
さびしがってた
なぁ
草摩夾 (The Final 6話)
お前の父親ってどんな顔してた
あんま覚えてないって前に言ってたけど
似てた?
そ、そうですね…
本田透 (The Final 6話)
顔は…あんまり…
で、でもあの!
話し方が!
話し方はとても似ているそうなんです!
本当にとても! 似てるって…!
お母さんも
嘘…です
本田透 (The Final 6話)
何も 似てないです
似てないから
口真似をしているだけです
私は 本当は
お父さんを
悪者のように思っていました
覚えているのに
ちゃんと優しかったことも
与えてくれたものも
ちゃんと確かに覚えているのに
それなのに
お母さんを
連れて行ってしまうんじゃないかって
だから気を引きたくて
私のところに居てほしくて
つなぎとめたくて
置いていかれるのは嫌だったから
自分が安心したくて
そのためだったらどんなこともする私は
簡単にお父さんを悪者扱いする私は
自分のためなら
どんな約束も手放そうとする私は
最悪です
なんて、愚かなんだろう
草摩夾 (The Final 6話)
きっとたくさん考えたんだろう
いかないでほしくて
置いてかれたくなくて考えたんだ
記憶に残る父親の面影を追いかけて
そうして導き出した答えが
的外れで 滑稽だったとしても
なんて愚かだろう
頑なにやり続けたその様は
さびしさを押し隠すその様は
容赦なく自分を責めるその姿は
なんて愚かで 愛しいんだろう
そんなこと
草摩夾 (The Final 6話)
分かってたよきっと
お前の母親は
それでも
支えに なってたよ
ちゃんと
そうだ 信じろ
いい
いいんだ
いくらでも言え
幻滅なんかしない
自分の夢とか願いとかをさ
草摩楽羅 (The Final 6話)
他人に託すことができる人はいいね
私にもできるかな
だって 同情なんかじゃないもの
あの気持ち 嘘じゃないもん
託せるもん